ISO22000・FSSC22000とHACCPの違いを転職視点で整理する
- 2021年6月の食品衛生法改正でHACCPに沿った衛生管理は原則全事業者に義務化され、もはや選べる資格ではなく前提条件になった。
- ISO22000・FSSC22000・JFS-Cは取引先が輸出企業や大手小売かどうかで求められる規格が変わり、求人票の対応資格欄は企業の商流を映す鏡になる。
- 資格を取っただけでは差はつかず、内部監査や是正処置の運用経験が伴って初めて転職市場での評価差につながるというのが山根の体感値。
「HACCPは取ったんですが、次はISO22000を取った方がいいんでしょうか、それともFSSC22000ですか?」
関西の食品工場で品質管理・品質保証を担当している方との面談で、この質問を月に数件のペースで受けます。結論から書きます。ISO22000やFSSC22000は「HACCPの上位互換」ではありません。HACCPという土台の上に、経営システムとしての骨組みを足したものだ、と僕は理解しています。順番を間違えると、資格を取っても転職市場での評価につながらない、という残念な結果になりかねません。今日はこの三つの制度の位置関係と、求人票の読み方、そして取得の順番について、僕の体感値を交えながら整理していきます。
0. 「HACCPで十分」なのか「ISO22000まで」なのか、分かれ道はどこにあるか
2021年6月1日から、食品衛生法改正によってHACCPに沿った衛生管理は原則すべての食品等事業者に義務化されました(厚生労働省)。つまりHACCPはもう「取るかどうか」を選べる資格ではなく、この業界で働く以上は当たり前の前提になっています。その前提の先にISO22000・FSSC22000・JFS-Cといった認証規格があり、これをどこまで取りに行くかは、企業の事業内容・取引先・輸出の有無によって大きく分かれます。輸出をしない地場のお惣菜メーカーであればHACCPの運用が固まっていれば十分なケースが多い一方、大手小売のPB製造や海外展開をしている企業では、ISO22000やFSSC22000の認証取得が取引条件そのものになっていることも珍しくありません。実際に面談していると「HACCPは持っているのに書類が通らない」という相談をたまに受けますが、その企業の求人票を一緒に見返すと、応募先が海外向けOEMを主力にしている会社で、暗にFSSC22000の運用経験を求めていた、というケースがありました。持っている資格の話ではなく、応募先がどの土俵で戦っているかを先に確認する必要がある、という典型例です。
1. まず整理する三段階 ― HACCP・ISO22000・FSSC22000・JFS-Cは積み木の関係
僕はよく「積み木」という比喩で説明しています。一番下の土台がHACCPで、危害要因分析と重要管理点の管理という「食品安全の技術的な仕組み」です。その上に乗るのがISO22000で、これは「HACCPの仕組みを、組織としてどう回し続けるか」というマネジメントシステムの規格です。さらにその上に乗るのがFSSC22000やJFS-Cで、GFSI(世界食品安全イニシアチブ)という国際的な枠組みに承認されたスキームとして、より厳格な追加要求事項が加わります。乱暴に言うと、HACCPは「やるべきことの中身」、ISO22000は「組織としての回し方」、FSSC22000・JFS-Cは「その回し方を第三者機関にお墨付きしてもらう際の追加ルール」という関係です。積み木は下から順番に積まないと崩れます。ISO22000だけを単独で取得しても、HACCPの土台となる現場運用が甘ければ審査で指摘が入りますし、逆にHACCPの運用実績がしっかりしている工場ほど、ISO22000・FSSC22000の取得はスムーズに進む傾向があるというのが僕の見てきた範囲での実感です。表にすると次のようになります。
| 制度 | 位置づけ | 義務・任意 | 想定される目的 | 関西企業での傾向 |
|---|---|---|---|---|
| HACCP | 危害要因分析と重要管理点の管理手法 | 2021年6月から原則義務(厚生労働省) | 食品安全の基本的な仕組みづくり | 全業態で対応が前提 |
| ISO22000 | 食品安全マネジメントシステム規格 | 任意 | 組織的な運用の仕組み化・対外説明力 | 中堅〜大手、取引先要求で取得 |
| FSSC22000 | ISO22000+業種別追加要求(GFSI承認) | 任意 | 大手小売・海外取引先の要求対応 | PB製造・輸出関連企業で増加傾向 |
| JFS-C | 日本発のGFSI承認スキーム | 任意 | FSSC22000相当の水準を国内基準で取得 | 中堅メーカーでの採用が目立つ |
2. 求人票の「対応資格」欄、何を意味しているのか
求人票の「歓迎資格」欄に「ISO22000審査員補歓迎」「FSSC22000運用経験者歓迎」と書かれているのを見たとき、これは単なる資格要件ではなく、その企業の商流を映す鏡だと僕は考えています。輸出を伸ばしている企業や、大手小売のPB製造を主軸にしている企業ほどFSSC22000・JFS-Cの記載が目立ち、逆に地場の食品スーパーや飲食店向けの製造がメインの企業ではHACCPと食品衛生責任者の記載にとどまることが多いです。以前、同じ「品質保証課長候補」という求人票でも、片方は「HACCP運用経験者歓迎」とだけ書かれた地場の加工食品メーカー、もう片方は「FSSC22000内部監査員経験者優遇」と書かれた輸出比率の高い調味料メーカーがあり、求める人物像も年収レンジも明確に違っていました。つまり求人票の資格欄を読むことは、その企業がどの取引先を向いて仕事をしているかを推測する手がかりになります。転職活動では、この欄を「資格の有無チェック」としてだけでなく「その企業の事業の方向性を知る窓」として読むことをおすすめしています。
3. 未経験・経験者別 資格取得ロードマップ
ここからは実務的なロードマップです。品質管理・品質保証としてキャリアを積んでいく場合、僕は次のような順番を勧めています。所要期間はあくまで僕が見てきたケースの目安値で、企業の運用体制によって前後します。
- 食品衛生責任者を取得し、現場のHACCP運用に1〜2年携わる。まずは「回す側」の経験を積む段階です。資格取得自体は講習1日で完了しますが、実務に馴染むまでを含めた期間として考えてください。
- 社内で内部監査やモニタリング記録の是正処置に関わる機会を得る。目安として半年〜1年ほど継続して関わると、是正処置のパターンが体に入ってくる印象があります。資格より先に「運用の実務」を体に入れることが後々効いてきます。
- 会社がISO22000やFSSC22000の認証を持っている、または取得を検討している場合、内部監査員研修を社内推薦で受講する。研修自体は数日ですが、その後の監査実務にどれだけ関われるかが評価の分かれ目です。
- 転職や社内異動でキャリアの幅を広げたい段階になったら、ISO22000審査員補などの外部資格を検討する。ここで初めて外部資格が「証明」として機能します。
未経験からいきなり審査員資格を目指すルートは、正直あまり現実的ではありません。多くの審査員資格は実務経験年数を要件に含んでいるためです。順序を踏むことが結局は近道になる、というのが僕の体感値です。
4. 転職市場での評価 ― 僕が体感している温度差
以前サポートさせていただいた40代の品質保証担当の方が、FSSC22000認証取得企業で内部監査員として2年ほど実務に携わったのち転職活動をされたことがありました。その方が体感として語っていたのは「資格の有無より、運用経験を具体的に語れるかどうかで面接の空気が変わった」ということでした。書類選考の通過率が明らかに上がった、という個人の体感値をお持ちでしたが、これは資格の名称そのものより「是正処置をどう回したか」「監査で指摘された内容にどう対応したか」を具体的なエピソードとして語れたことが効いていたのだろうと僕は見ています。一方で、JFS-C認証を取得したばかりの中堅メーカーに在籍していた別の方は、認証取得プロジェクトの立ち上げメンバーとして関わっていたため、面接では「認証をゼロから構築した経験」として評価され、運用歴が浅くても書類通過につながったケースもありました。同じ「認証あり企業に在籍していた」でも、既に出来上がった仕組みを運用しただけなのか、構築段階から関わったのかで、面接官の受け取り方はかなり変わります。
5. 落とし穴 ― 資格を取っても評価されないケース
逆に、資格だけを取って評価につながらなかったケースもお伝えしておきます。通信講座でISO22000の基礎資格を取得したものの、現場での運用機会がないまま転職活動に臨んだ方は、書類は通過しても面接で「実際にどう運用しましたか」という質問に具体性を欠き、選考が止まってしまうことがありました。もう一つ、これは僕自身が反省も込めて覚えているケースですが、HACCPの管理者講習だけを受けて「HACCP資格保有」と職務経歴書に書いてしまい、面接で危害要因分析の実務内容を突っ込まれて答えに詰まってしまった方もいました。講習を受けたことと、実際に危害要因分析表を作成・運用した経験があることは、書類上は同じ「資格あり」でも中身がまったく違います。資格取得を検討する際は、取得後にその知識を使う現場が自社にあるかどうか、そして職務経歴書に書く際は運用実績を伴う表現にできるかどうかも合わせて確認しておくと、無駄な投資や面接でのつまずきを避けられます。
(結論)
HACCPはもう前提条件、ISO22000は組織としての回し方、FSSC22000・JFS-Cは取引先の要求に応じた上乗せのお墨付き。この積み木の構造を理解した上で、自社の商流と自分のキャリアの方向性に合わせて取得の順番を決めることが、遠回りのようで一番の近道だと僕は考えています。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. HACCPとISO22000はどちらを先に取るべきですか?
順番としてはHACCPが先です。2021年6月の食品衛生法改正でHACCPに沿った衛生管理は原則すべての食品等事業者に義務化されており、ISO22000やFSSC22000はその土台の上に経営システムとしての骨組みを足すものだからです。HACCPの実務運用を1〜2年経験してから、取引先の要求や事業の輸出展開に合わせてISO22000・FSSC22000を検討する、という順番が僕の見てきた範囲では一番現実的だと感じています。
Q. FSSC22000の資格は品質管理職の転職で本当に評価されますか?
資格そのものより、その資格をどう運用したかが評価されます。FSSC22000は認証取得企業でのみ本格的な運用経験が積めるため、該当企業に在籍していた事実自体が評価材料になりますが、面接では内部監査の実施回数や是正処置をどう回したかを具体的に聞かれる場面が多いというのが僕の体感値です。資格取得だけで終わらず、運用の実務を語れる状態にしておくことが評価差につながります。
Q. 未経験からISO22000審査員補などの資格を目指すのは現実的ですか?
未経験からいきなり審査員補を目指すのは、正直あまり現実的ではないと僕は考えています。審査員資格の多くは実務経験年数を要件に含むためです。まずはHACCPの現場運用と食品衛生責任者などの土台を固め、品質保証部門で内部監査に関わる機会を得てから、社内の推薦でISO関連の研修を受けるという段階を踏む方が、遠回りに見えて実は近道になるケースを多く見てきました。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。